開催のご挨拶
この度、第36回泌尿器分子細胞研究会を主催させていただく栄誉を与えていただきました。本学が担当させていただくのは初めてであり、世話人、評議員、会員の皆さまに感謝申し上げます。
医学は、数学や物理や化学のような自然科学とは違い、社会科学に分類されますが、それは医学と医療が社会性や倫理性を持つが故でありましょう。その社会科学の中でも、比較的自然科学に近い分野が分子細胞学であり、我々が日常的に使っているPCRやMRIをはじめ、iPS細胞や免疫分野など、近年のノーベル医学生理学賞の受賞テーマを見返しても、分子細胞学の発展が医学と医療の進歩に寄与している恩恵は計り知れません。しかし、本質の理解にはまだまだ道半ばだと思います。ある自然科学分野の進歩に対して、その道の第一人者が、「多くの人はその本質を理解していないのに、理解したつもりで議論している」と仰っています。映画ジュラシックパークの中で、カオス理論を専門とする数学者のマルコム博士は、「生命は生き残る道を探す」と言っています。このことは、生物のみならず、細胞レベルでも当てはまる事は自明です。疾病の本質はどこにあるのか? それは、患者の中にこそ隠されているのでしょう! その真実を見ようとしなければ何も見えてはこないでしょう! 画像や病理学的検索でマクロな点はかなり理解できますが、分子細胞学的手法を使うことで更なるミクロの視点での理解も深まります。しかし、意思や思考や感情の視点も含め、もっともっと奥深い点での探究はどうでしょうか? 少し、寄り道の話題になりますが、鳥は越冬や子育てのために、数千キロメートルの渡りをしますが、最近の知見では、網膜に存在する光受容タンパク質「クリプトクローム」が青い光を受けて「ラジカル対」という量子もつれ状態の分子ペアを形成し、地球の磁場を視覚的な感覚として感知する仕組み(量子コンパス)が中心的な役割を担っていると報告されています。化学は応用物理学、生物学は応用化学と言われているように、この鳥の渡りも量子力学から発展した量子生物学にて解明された事実です。将来的には、医学研究も量子の世界へと踏み込んでいくのが自然な流れとなるのではないでしょうか。
診断や治療方針に悩む場面は日々経験していますが、そこを打開して前に進むには研究者の視点とマインドが絶対に必要なのではないでしょうか。 医療と同様に予想が非常に難しい気象学の分野で、地球気候の物理的モデリングで真鍋博士がノーベル物理学賞を2021年に受賞されましたが、現在では、AI を使うことで、気象予測の精度が格段に上がっているようです。医療の世界においても、いずれはそうなるでしょうが、医学におけるロジスティック方程式は、感染症の流行予測を別にすれば、がん細胞の増殖や血管新生などの細胞レベルでの生命現象を予測する数理モデルですが、まだまだ現実の臨床に耐え得る精度はなく、今後の基礎と臨床両面からの新たな数理モデルの構築もAIを使う上で必要と考えます。
このようなことから、他の自然科学領域での発展に触れることも、自分達の未来を見直す上で大切な「縁」になるのはないかと考え、特別講演を用意しました。一人でも多くの方が参加され、参加者の今後の研究の方向性につながるような議論の「場」となることを願っております。教室員一同、皆様の来訪をお待ちいたしております。